2009年9月10日木曜日

1月8日 レグ8 平均時速12kmちょい・・・・


ズエラット~エルムルティー  684Km(SS680km)

「サハラ砂漠を知らずしてパリダカを語るな・・・・」

 誰が言ったのかは知らないけど、これはいかにサハラ砂漠の砂丘群が過酷であるかを表す言葉。
昨日リタイヤした4輪は16台にも及んだそうだ。しかし、今日から3日間もマラソンステージ(メカニックによる整備禁止ステージ)が続く。完璧なふるい落としのステージ。 このマラソンステージを走り切ったら、どこの誰にも遠慮なくパリダカを語れるはずだ。

 そんなことを考えながらいつもより緊張気味でスタートしたが、案の定、サハラの砂は、私たちの行く手を徹底的に阻んでくれた。

スタック。
スタック。
スタック・・・・。

 私の目に見えるものは、いくつも折り重なったオレンジ色の砂丘群だけ。
容赦なく照りつける太陽にエネルギーをどんどん吸い取られていく。
 
 サラサラの砂を掘る。もがくマシーンを押し出す。
進んだ距離が1メートルに満たなくても、掘っては進む・・・を繰り返すしかない。
マシーンがキャメルグラスにのりあげた時は、そこが平らになるまで何時間も砂を掘った。
ここから脱出するには 砂を掘るよりほかに方法がないのだ。
 
 サハラを制するには砂と戦うのみ!

そうやって何度も何度もスタックを繰り返しているうちに、あっという間に日が落ち、またサハラに夜が来てしまった。

 暗闇の中、私は不思議な感覚に包まれていた。
去年、震えるほど感じた夜の砂漠に対する恐怖心が、全くと言って消えていたのだ。
感じていたのは疲労感だけ。恐怖心も、不安感も、焦燥も、怒りもそこにはなかった。マイナスに引き込む感情が全くと言っていいほど消滅している。まるで無の心。その感覚がとても新鮮で自分を楽に保つことができた。 思うに、克服しなければならないことが起きた時、自身の持つ感情が先に進むことを邪魔するならば、無心になればいい・・・・ということかも。 だけど、そんな簡単に「無心」になんてなれないんだよね。色々なものが邪魔をするんだよ。「無心」を楽しめたのはこの時だけだったもん・・・・。

 砂と戦って、戦って、戦って・・・・。
やっとの思いで189kmの設置されているCP1に到着。
通過時間は・・・・15時間もかかった。
もう一度書くけど、15時間も!だ
平均時速にすると、12kmちょっと!!
諦めないっていうことは、最大の武器なんだなって、つくづく思うわ。

 通過証明のスタンプを押してもらた時、友川が叫んだ。
「やったぁ!本当にやったんだよね!あの砂丘から抜けられたんだよね!」
友川の思いが痛いほど伝わってくる。一昨年、どっぷり飲み込まれてしまったあの砂漠に勝てたのだ! 気の利いた言葉が見つからず、私はただ笑いながら頷いた。

 だが、喜んでばかりいられない。腕時計を見ると、すでに夜中の2時半を回っている。
一番車がスタートするのが10時だから、9時半までにゴールすればリタイヤにならない。
大雑把に計算しても、ギリギリだ。間に合うか、間に合わないかは走ってみないとわからない。
あとは砂漠の神に祈るしかない。

 神に祈りが届かないのか、その先も同じだった。砂丘群こそそうひどくはなかったが砂はふかふかで、コーションも数多く、友川はアクセルを思ったように踏めないでいる。無慈悲に時が流れていくばかりだった。

 マシーンだけじゃなく、私たちも同様にもがいていた。
なのに、ついにアフリカの大地に朝がきてしまう。
白みかけたなと思っていると、あっという間に大きな太陽が勢いよく昇り始め、再び砂だけの世界を映し出す。悔しいくらいまぶしい。
・・・・太陽のせいで、焦りが心の中を大幅に支配する。
(頼む、間に合って!)

 370kmあたりから現れた砂丘群・・・・。
まだ残り310kmもあるっていうのに!
タイムアウトの文字が浮かぶ・・・・が、決して口に出したりできない言葉だ。

 そこは、今まで見たこともないくらい真っ白で美しい砂丘群だった。
何台ものマシーンが砂に捕まっている。
・・・・皆、同じように疲労と焦りの表情を浮かべながら砂と闘っている。国籍やバックグラウンドが違っても、今ここで感じていることは皆同じようなことだろう。

 私たちが2回目のスタックから抜け出した時には、もう9時を回っていた。
それでも友川は諦めずにアクセルを踏んでいる。
「こんなにたくさんの競技車がゴールしてないんだから、まだ、可能性はある!」
友川は自分に言い聞かせるかのように言った。
「うん、とにかく走ろう。」

 少し走るとそこは砂の平原に変わった。
地平線が見える。それまであちらこちに散らばって走っていた何台ものマシーンやカミヨンが、ゴールに近づくにつれ、ゴールというポイントに向かって集まってきた。朝の光を受け、キラキラと乱反射しながら、いつの間にか何台も並走して走っている。どのマシーンも、今まで思うように踏めなかったアクセルを思い切り踏み込み、ゴールを目指して驀進している。

 平原にクラクションがあちらこちらで鳴り響いた。
「よくやった」とお互いを誉めたたえ、諦めるなと励まし合っている応援歌のようなものだ。チームは違っても、あの過酷なコースを乗り越えたという仲間意識みたいなものが生まれていた。ウインドー越しに見えるどの顔も満足そうにしている。

「・・・・今までどこを走ってたんだろうね、この人たち。」
「周りにこれだけいるんだから、ほとんどのカミヨンがまだついてないんじゃない?」
「・・・・うん。」

 エアメカ禁止のマラソンステージではカミヨンとそれに乗っているメカニックが命綱なのだが、この分だと、十分に整備を受けられないままに9日目のスタートを余儀なくされたバイクやマシーンも多かったに違いない。友川が言うように、スタート時間が遅らされるなどの処置がとられているかもしれない。
そんな微かな思いを胸にとにかく走り続ける・・・・。

  ようやくエルムルティーのビバークに着いたのが昼の12時半。
そこに残されていたのはオフィシャルテントが一つと給油のためのトラック1台、それと小さな飛行機が一機のみ。
疲れた顔をしたオフィシャルが数人残っているだけだった・・・・。
全てが終わった後のようだ。

 事務的に、無表情に対応しているオフィシャルに恐る恐るタイムアウトかと尋ねる・・・・。
「少し休んで、給油してからすぐにスタートしなさい。」
と、今日のルートブックを渡された。
友川と目が合う。子供みたいにキラキラした目だ。
「やったー!まだ走れる!砂漠の神様に見放されなかった!」
何か言おうとしたけど、やっぱり良い言葉が見つからず、ただ笑顔でうなずく。

太陽のせいで目の奥が痛かった。 いや、うれし涙のせいかも・・・・。

0 件のコメント:

コメントを投稿