2009年9月11日金曜日

1月9日 レグ9 コンボイのわけって?

エルムルティー~タウンデ二 478Km(SS478km)

 長い長い一日が終わり、そしてまた長い一日が始まった。

後から聞いたところによると、昨日のステージを制限以内に走った4輪は40台にも満たなかったそうだ。出走した台数の半数以下だ。そのため、私たちが想像した通り、制限時間を延長する措置が急遽とられたというわけ。無線も持たずに走っている私たち競技者は、コース上でそういう情報を知るすべは一切ないわけで、タイムアウト覚悟で必死にゴールを目指した者にのみ生き残るチャンスが与えられた。

 私たちは、まだ走れる!そうわかった瞬間、私の脳にはエンドルフィンが分泌されたらしい。体が軽く感じられたもん。



 給油を終え、フロントガラス越しに広がるサハラ砂漠を見つめる。
オレンジ色が目にしみる。また、あの中に入っていかなければならないのか・・・・。 自分を落ち着かせるためにもエントラントの証である黄色のブレスレットに感謝のキスをしてみた。サッカー選手がゴール後に指輪にキスするのを思い出したからだ。
意外に効果あり。

 だが、エンドルフィンはすぐに底をついたようで辛い時間が容赦なく続いた。 とにかく辛かった。 自分で感じていた以上に精神的にも肉体的にも疲労していたのだと思う。私の心理状態はばらばらにつなぎ合わされたパッチワークのようにぐちゃぐちゃになっていった。辛くて、苦しくて、情けなくて・・・・。
ずっと心が叫びたがっていた。
「こんなのベストな戦い方じゃない!」と。
それでも戦うしかない。

・・・・・そしてまた、いつの間にか暗闇に包まれていた。

 スタートして184km。
砂丘群。 登っては下り、登っては下り・・・を小刻みに繰り返す。マシーンのエンジン音はこれ以上は無理というくらい激しい。
 
 いくつかの砂丘群を攻略していくと、少し先が薄明るくなっているのが見えた。誰かのヘッドライトなのだろう。私たちも吸い寄せられるようにそこへ向かうと、すり鉢状になったところで何台ものマシーンと、ずっとトップを走っていた三菱のレーシングカミヨンが砂につかまっていた。友川が、
「なんでー!!!!」
と叫び、カミヨンの横を何とかギリギリすり抜けた。 まるでスローモーションのようだった。そこにいたカミヨンドライバーのベルシノ氏の疲れ切った表情も、ナビたちがスコップで砂を必死に掘っている姿も、全てはっきりと見えた。再び、自分たちが進むべきルートに視線を戻すまでのほんの数十秒間で、緩みかけていた気力が、一気に、きっちり閉められた感じがした。

 1998年のパリダカは第20回大会というだけでなく、その歴史にも残るような過酷なコース設定をし、エントラントも、マシーンも、容赦なく極限状態に追い込むつもりなんだ。
 
 己の人間性を研磨し輝かせるためには必要な経験って必ずあると思う。パリダカが私にとっての研磨剤ならば、私はこの過酷さを素直に受け止める。後の人生をピカピカに輝くものにするために必要じゃない感情や思いは、この際すべてそぎ落とそう。そして、何が何でもダカールのあの海にまこねぇを連れていく!それ以外は何も考えられなかった。


 感情の洞窟から無事生還。

 
 253kmに出てきた砂丘群の手前で、3台の4輪と3台の医療班が止まっていた。
砂丘群を迂回するコースを探しているそうだ。私たちも単独でこの中に入っていくにはあまりにも疲れ切っていたので、無理をして進むよりはこのコンボイに混ぜてもらった方がいいと判断。なんとか進めそうなラインを皆で探しながら進んだ。
 
 砂丘群に阻まれ、行ったり来たりを繰り返しているうちにコマ図を追うのが不可能になっていた。こうなったら次のウエイポイントまで直線で進路をとるしかない。次のポイントまでは・・・・80kmもある・・・・。先頭を行くマシーンもその気らしい。私たちも思い切ってついていくことにした。何が隠れているかわからないオフルート。生き残るには「勘」と「勇気」が必要。でも、かなり緊張していたようで、60kmほど走ったところで、ヘッドライトが新しい轍を浮かび上がらせた時には心底ホッとした。オンルートに復帰! 大体の位置も確認できた。


 続いて現れたのが、366km地点の1.4km続く砂丘群。
轍が四方八方に別れている。
コマ図によると、カップを150度から90度に進路を変えなければならない。私たちのコンボイも各々トライするが、どのマシーンも砂丘のトップを超えられなくてバックしながら戻ってくる。友川も同じだった。
 きっと明るいうちならベストなラインも簡単に見つかるのだろうが、今は漆黒の闇の中。なるべく多くのマシーンが通った轍を追う方がリスクは少ないと思いアタック。が、やはり超えられない。

 腕時計は朝の4時を指している。
医療班はこれ以上先に進むことをあきらめ、ここでビバークすることに決めたようだ。それにつられるように他のマシーンもエンジンを止めた。残り100km・・・。タイムアウトしたくないので、私たちはトライすると伝えると、10日目のSSは全行程キャンセルされたので、タイムアウトにはならないと教えてくれた。あぁ、そうか・・・。彼らには無線がある。間違った情報ではないはず。
 私も友川も45時間も寝ていない。例え1時間でも仮眠したほうが良いに決まっている。

 目を閉じたとたん気を失ったかの様に眠ってしまった。
耳元で1時間後にセットした目覚ましが遠くで聞こえた。まだ3秒しか寝ていない感じ。
ドロドロとした目を無理やりこじ開け、ペットボトルの水を顔にかけ、寝ぼけたまま白み始めた外を見ると、さっきまで見えていなかったルートがはっきりと浮かび上がっていた。友川もそれに気がついたらしくすぐにエンジンをかけた。医療班のマシーンの下で寝ていたドクターらしき人に、先に行く!と手で合図をした。一瞬、彼が私たちのことを制するようなしぐさを見せたが、かまってられない。友川は躊躇することなくこの砂丘にアタック。そして、見事に越えてくれた。今までのどの砂丘越えより美しい!ブラボー!

 タイムアウトがないとわかっても気が逸る。
辺りは変わり映えしない砂、砂、砂、の世界。本当に進んでいるのかと疑いたくなるくらい。

 恐ろしいほどの睡魔と闘いながら進んでいくと、前方の砂丘の上から手を振っているエントラントを見つけた。近づいてみると、同じチームの、ベルギーからプライベートで参戦しているお金持ちのおじさんだった。英語が話せないらしく、いつも挨拶くらいしかしないので名前を覚えていないことに気づいた。ナビのシリルとは去年から仲良し。
「カミヨンは見たか?」
「見た。けど、昨日の今くらいに」
シリルが深い溜息をつく。クラッチにトラブルが起きて、もう20時間もここにいるそうだ。
「20時間も?! 私たちは、この2日間で1時間しか寝ていないの!」
何の慰めにもなっていないのは分かっている。けど、シリルは笑ってくれた。
あのコースではカミヨンの到着はまだ先になりそうだ。もしかしたら、この先で必要になるかもしれないけど、チームメイトのためにペットボトルの水を2本とキャンディーを数個分けてあげた。
「これは貸しだからね! ベルギー産のチョコレートでいいからっておじさんに言っといて!」
シリルがまた笑う。
「ははっ、ちゃんと伝える。もういいから早く行け!」

 シリル達と別れてからしばらくの間、私の頭の中には、またまた色々な思いが押し寄せてきていた。
今、この同じ時、砂漠に翻弄されているのは私たちだけでない。他のエントラント達も、ダカールのあの海を見るために、ゴールという宝を手に入れるために、アクセルを踏み、ハンドルを握りしめ、大声でルートを指示し、この砂漠と闘い続けている・・・・。自分を信じ、今を、この時間を必死に乗り越えなければ・・・・。友川にはできる!そして、私にも!!

 そうやって友川を励まし、自分を励まし、容赦なく続く砂丘越えと、突然現れるガレ場にてこずりながら、少しずつゴールに近づいていくと、医療班が後から追いついてきた。そして、止まるよう合図された。

「10日目のSSはキャンセルされたのは知っているだろう? オーガナイザーから、競技車両は何台かでコンボイを組み、一緒に行動をするように指示が出ている。」
と言う。・・・あぁ、今朝、制止しようとしたのはそういうことだったんだ。あの時点で言ってくれればいいのに・・・・。
「この人たち、わざわざおっかけてきてくれたのかな?」
「いや、そういうことじゃないかもよ・・・・。」
「まっ、いいか。そういう指示なら仕方ないか。」
「ここで、他のマシーン来るのを待つの?」
「それは、ちょっとダルイよねぇ。」

 私たちがブツブツ言っている間に、医療班はオーガナイザーと無線で何やら連絡を取っていた。
すると、驚いたことにヘリコプターが一機、頭上に飛んできた。
「一番ベストなルートを空から指示するから、ヘリコプターを見ながら走れ。わかったな?」
「・・・・ヘリコプターを?」
何か解せないところもあったけど、とにかく、そういう指示なら仕方がない。レースから少し外れた感じがするけど、大人しく指示に従うしかない。 それでも、ヘリコプターに先導されるっていう経験も中々ないだろうし、ちょっとしたワクワクと、安心感のようなものを感じていた。

 そうやって、私たちはヘリコプターを追いかけ、やっとゴールすることができた。
所要時間は24時間・・・・。ヘトヘトです。



 

 

4 件のコメント:

  1. ごぶさたしてます!
    いつも懐かしい想いで読ませていただいております。
    まこねえは癌なんですか?
    心配ですね・・
    このステージ、今も思い出します・・
    なんでこんなラリー出てしまったんだろうと後悔しながら走ってました!

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  2. ボン様
    コメント、ありがとうございます♪
    まこねぇは抗がん剤治療がうまくいき、今はとっても元気ですよ。チャンスがあればどこかでお会いしましょう!
    ところで、ボンさんって・・・?

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  3. すみません、ボンです!
    私はTEAM ISUZUドライバーの坂です。覚えてますか?
    今は札幌でまじめに?会社員をしております。
    akeminのブログ見てたら懐かしくて、また現役復帰
    したくなっちゃいますね~

    まこねぇは良かったですね!安心しました。
    今度またお会いしたいですね!

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  4. お~っ、坂君!坂君って、銃撃された坂君?
    きゃ~~っ!お久しぶりです!
    ナビのY君はお元気ですか?
    また、チャンスがあれば皆で集まってワイワイしましょうね♪

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