ティジクジャ~アタール SS400km だけど、私たちは1100km 驚いたことに、ビバーク地には三菱のカミオンが3台とも残っていた!

今年、三菱から初参戦した
リュック・アルファンド氏(元滑降スキーのワールドカップチャンピオンで、ヨーロッパでは大スター。日本で言うところのイチローみたいな超人気者)が、整備を受けているからだった。リュック氏には悪いけれど、私たち、なんて幸運なんだろう!
友川がクラクションを鳴らすと、私たちに気がついたメカニック達が歓声をあげた!
「Ca va(大丈夫)?」
「マシーンの調子は?」
メカニック達は次々と私たちに質問を浴びせた。
「2駆になったの。」
メカニックの顔が曇る。
「走っている最中に回転数が下がらなくなって、すごい音がしたんだ。それって2駆になったことに関係ある?」
「見てみないとわからない。リュックのマシーンがなんとかなったら見てみるから、とにかく少しでも休め。」
プロトのメカニックを担当している白髪のメカニックが、曇った顔のままそう言った。
リュック氏は慰めるように私の頭を左手で抱え込む。
「俺のマシーンも相当ひどいが、お前たちも大変だったんだな。」
いつものように爽やかに笑ってはいるが、疲労の色が隠しきれていない。
名スキーヤーだけあってスピードには長けているらしく、常に上位で戦い続けてきたリュック氏だったが、昨日のステージでかなりのダメージを受けてしまったようだ。オイルパンまでやられている・・・。
私はしばらくの間リュック氏に抱えられたままでいることにした。
「まだ走れそう?」
という私の質問に、リュック氏は、「え?」という顔をする。
「お前たち、タイムアウトじゃないのか?」
私は手に持っていたルートブックを見せた。
「よくわからないけど、この時間でもタイムアウトにならなかったの。諦めなくてよかったよ♪」
「・・・・カミオンにけん引されてここに着いたが、俺たちはどうなる?リタイヤか?」
「
カミオンバレー(コース上でリタイヤした競技者やバイクなどを引き上げるレース最後尾を走るトラック)に牽引されたんじゃなかったら、リタイヤにはならないよ。・・・・まだ走るつもりで整備してるんじゃなかったの?」
「いや、マシーンをここに残していくわけにはいかないと思っていたんだ・・・・。」
リュック氏と目が合う・・・。
「・・・私たち、時間的にもここでマシーンを修理することはできないだろうし、2駆のままでSSに入るにはリスクが大きすぎるので、ペナルティー覚悟で迂回路を走って次のビバークまで行くつもり。リタイヤしたくないから・・・。だから、リュックさんも諦めないで! 直せるところまで直して、私たちと一緒に迂回するか、SSに入るか、どちらかの方法でアタールを目指すべきよ!」
私の話を聞いていたリュック氏が頷く。
「Yeah....Thanks.」
リュック氏の視線が鋭く変わった。きっとSS入りを決めたのだろう。
・・・・確かに、リュック氏に迂回は似合わない。たとえ可能性が10%に満たないとしても、その「0」ではない可能性に賭けて果敢に戦おうとしている。凡人ではない潔さと戦闘心に満ちた目だ・・・・。
男は、こうでなくちゃ!
リュック氏の心地よい羽交い締めからすり抜け、 次にしなければならないことは決まっていた。ここからの迂回路を確認しなければ・・・・。友川と一緒に地図を広げる・・・・。
SS を走れば北西に400kmで今日のビバークに着くのに、一般道を走るとなると西に600km、それから折り返すように東北東に500km・・・・計1100kmにもなる。しかも一般道といっても初めの250kmほどは完璧なオフロードだ・・・。砂漠の中を走らされる。だけど、他に道はない。時間もない。・・・・考えられることはただ一つだ。アクシデントを回避するには迂回路を走るであろうアシスタンスカミオンと途中まででも一緒に走らせてもらうほかはない。
「お前、本気か?」
「はい。リタイヤしたくないんです。」
白髪メカニックは、やれやれと首をふる。
「だが、俺たちと同行できるのはヌアークショット手前のブーティリミまでだ。そこからアタールまではまだ700kmある。それでも良いのか?」
・・・・ヌアークショットからなら舗装路のはずだ。
「とにかくお願いします。」
「・・・・お前らに何を言っても無駄だな。T5 用の地図を見ておけ。」
よっしゃ!交渉成立!

ティジクジャには砂嵐が吹き荒れていた。
砂だけでなく、小石やゴミの類がもの凄い勢いで体中に当ってくる。地元の女の子たちは布を頭から巻き付けて砂嵐の中でキャッキャと笑っている。
なるほどね・・・。巻き付けただけのようだが、民族衣装は機能的だ。
私は凶器と化した風と彼女たちの興味深々な視線を避けるためにカミオンの中に避難した。疲れた・・・・。今夜も夜通し走り続けないとならない・・・。5分でも良いから目をつぶらなければ・・・(意識消える)
・・・・・どのくらい目を閉じていたのかわからないけど、リュック氏のマシーンの周りが急に騒がしくなったので目を覚まさなければならなかった。
「アレ!
(行け!)アレ!アレ!」
メカニック達が手拍子を叩きながらリュック氏を送り出そうとしている。
リュック氏は雄たけびのような声を上げ、こぶしを天に向かって突き上げた。そして、メカニック達と次々とハグを交わしマシーンに飛び乗っていく。
・・・・戦いに行く戦士のようだ。
私はカミヨンの荷台から身を乗り出し、
「Bon courage!(がんばって!)」
と叫んだ。リュック氏は私の視線を探し出し軽く手をふった。白い歯が二カッと光る。かっこいいったらありゃしない。
それから10分もしないうちに、私たちはカミオンを先導するようにビバークを後にした。
当然といえば当然なのだが、この一般道・・・・SSとそう変わらなかった。 ラクダ用の道なんだから仕方がないが・・・・。
地元の人だろうか?「ごつい」と表現するにぴったりのスタックボードを4枚も積んで走っている4WDに追い付いた。 結構スピードも出ていて、ハンドルさばきもお見事・・・。毎日SSを楽しんでいるということだろう。
しばらく走ると、小屋みたいな小さな建物が見えてきた。前を行く4WDがその小屋の前で止まる。
通り過ぎようとスピードを緩めると、車の中から北アフリカ系の顔をしたおじさんが私たちを呼びとめる。
「ちょっと、降りてお茶でもしないか? ヌアークショットはまだまだ先だぞ。」
なに?ここってサービスエリアなの?
「せっかくですが、私たち、アタールまで行かなければならないので時間がないんです。」
「・・・・アタール?!」
男の人はかなり驚いたようだ。
「それは大変だ!呼び止めて悪かった。良い旅を!」
・・・・驚いて当然。もうお昼だっていうのに、今からまだ1000km近く走るなんて、普通じゃない。ハイウエイがあるわけでなし・・・・いったい、何時間かかるかもわからない。もしかして可能性が10%に満たないのは私たちの方かもしれない。
それから先は1台の車も、人の影さえも見なかった。
真っ白な白砂漠の中の1本道をひたすら走る。
だんだんと砂が浅くなり、走りやすくなってきている。町が近づいてきたのだろう。
ん?なんか変。あれ?轍が消えた・・・・。あれ?反射板みたいなのが見える。
・・・・え?
もしかしたら、ここって・・・・!
「・・・・まこねぇ、ここ、滑走路だ! 飛行機が着陸してきたら大変だ!」
「え~~? じゃ、どうするのよ?あんた、地図みたんでしょ?どっちに行けばいいの?」
「とりあえず誘導灯から離れて止まろう。すぐにカミヨンも来るはずだし。」
「迷ったんじゃないの?もし私たちが道を迷っているんだったら、カミヨン、くるわけないじゃん!!」
友川のイライラが一気に最高値に達したようだ。
確かに嵐で砂に埋もれてしまい、道を見落とした可能性もなくはない。そうであるなら、GPSの軌跡をもとにたどり、引き返しながら道を探すか、緯度経度から現在地を見つけ、アタールに向かう道がどの方向にあるのかを探し出すしかない・・・。窓の外はオレンジ色に近い砂が風に巻き上げられ、10メートル先も見えないほど視界が悪い。どっちにしろ、しびれる状況だ。
「ごめん、ごめん。今、位置を確認するから少し時間をちょうだい。」
そう言いながら、頼むから、カミヨン、追い付いてきて・・・・と、心の中で祈る。
・・・・えっと、今がティジクジャから260kmくらいだから・・・・。この辺りで・・・・。空港なんて地図に載っていないけど・・・。 緯度経度が・・・・で。・・・うん、ここだ。だとすると、ブーティリミへの道は西南西の方向だから・・・・と、顔を上げると・・・・砂嵐の向こうからカミヨンがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「来た~~~っ!!!」
私たちが止まっているのを見つけたカミオンがクラクションを鳴らす。 なぜか頭の中で「ガンダム」のテーマソングが流れた。
「燃え上がれ!燃え上がれ!燃え上がれ!ガンダム~~ウ」ってやつ。
だって、カミヨンに乗っているメカニック達は かっこいい。モビルスーツで武装したみたいにかっこいい。
それからは、友川にはおとなしくカミオンの後をついて走ってもらった。
スピードより、精神的に安心できる方を選んだってわけ・・・・。 それに、コマ図無しでこの空港から脱出し、一般道に出るには相当に時間がかかったかもしれない。
そんなこんなであっという間に日が落ちて、明後日のビバーク地になるブーティリミに着いたのが夜の8時前だった。3台のカミヨンが止まり、メカニック9人が次々と降りてきた。
「何度も言うが、ここからアタールまで、まだ700kmある。本当に行くのか?着くのは夜中の3時過ぎになるぞ。」
9人全員の真剣な視線に囲まれていた。9人が円陣を組み、その真ん中に私たちがいる。
「勿論です!」
「行かせてください!」
彼らの真剣さに負けないように私たちも真剣に答えた。
「だったら、すぐに走れ!」
「ヌアークショットまではここからまっすぐだ。迷うことはないからどんどん走れ!」
「ヌアークショットに着いたら誰でもいからアタールまでの道を聞くんだぞ!」
「修理する時間を考えたら3時半を目指すんだ!途中であきらめるなよ!」
・・・・同じ意識を持つ仲間に囲まれるのは心地よい。
戦いに行く前の戦士の気持ちに近いのだと思う。闘争心に火がついた感じ。心の底から叫びたい衝動に駆られる・・・。
皆は励ましの言葉と、暖かいハグで私たちを送り出してくれた。
・・・・それから先は睡魔との戦いだった。
1100kmという距離を走り、アタールに着いたのは朝方の4時半。
まだ起きていたチーフメカニックのアランさんが私たちの姿を見て驚く。今までのことをかいつまんで伝えると、感心したように頷いてくれた。
「よくやった。後は俺たちに任せて早く寝ろ。明日も辛いぞ。」
そう言って、いつものように私たちを追い払った。
テントを張りながら辺りを見回す・・・・。
ビバーク地は閑散としていた。このSSで、かなりの台数がリタイヤしたに違いない。
リュック氏のマシーンも見当たらなかった・・・・。
パリダカでは、FIAに従って様々なレギュレーションが定められている。
その日のコース上に設定されているCP(コントロールポイント)通過時に通過証明のスタンプを押してもらう。CPを通過しなければペナルティーの対象になり、1か所につき何時間か加算されるだけでなく、合計4か所のCPを通らなかったらリタイヤになる、という規則もある。
私たちは今日だけで3か所通過しなかったので、かなりのペナルティーを受けたはずだが、レースには残れる。・・・・リタイヤを避けるには、迂回も必要な選択だ。 ・・・・私たちは間違っていない。