視界から象の岩が姿を消したころ、太陽が沈んだ。

相変わらず、友川は何度もスタックを繰り返している。
・・・ただひたすら砂を掘り、マシーンを押す。10センチしか進まなくてもまた同じことを繰り返す。
あえて表現するなら「心に力を込める」という感じだった。希望を失わず、諦めず、前を見る・・・・。そうやって1回ごとに心に力を込めなおさなければ、私は悲鳴をあげてしまいそうなくらい肉体的に疲労していた。スタックボードを掘りおこしマシーンを追いかける・・・・。
息抜きを求めるように頭上を見上げる。
ん?・・・・あれは、UFO?いや、きっと人工衛星だ。人工衛星が見えるなんて、アフリカってやっぱり凄い。
「おーい、今の私たちをちゃんと見ておいてくれっ!こんなに頑張っているんだから!!!」
バカみたいだってわかっているけれど人工衛星に向かって手を振ってみる。ほんの一瞬の息抜き・・・。
だけど、なんでこんなにスタックするのだろう?
昨日まで、この程度の砂丘越えは軽々こなしていたのに・・・・。私が考えている以上に友川の疲労が激しいのだろうか?少し休ませなければならないのだろうか?
・・・・考えあぐねていると、一心不乱にマシーン下から砂をかきだしていた友川が、いきなり天に向かって叫んだ。
「良い人間になります!だからここから出してください!」
昭和の中ごろに生まれ、私たちくらいに年齢を重ねた女性は、日本では狭い展望の中でしか生きられないことが多い。 だが、友川はまだ独身で、こうやって好きなことをやらせてもらっている。多くの女性からその自由さをうらやましがられたり、「理解はできないけれど、なんだかすごい人なのねっ」と、思われている。私も普段はなんてことのない生活をしているけれど、確かに普通ではないのは認める。普通じゃないところにフィルターをかけずにいると、なんだかとんでもない人間のように思われがちだ。
ただ、こういう何の制限もない大自然の中では自分の本質が見え隠れしてしまい、それが痛かったり、辛い時もある。今の「良い人間になります」には、普段、決して人には見せようとはしない友川の中に隠されている女性的な弱さが遠慮なく現れたからなのだろう。それプラス、知りたくなかった自分自身の感情が、こんな自然の中で顔を出したら、・・・やっぱり天に向かって謝るしかない。
昭和的狭い展望と感情にフィルターをかける日常の方が、知らなくてもいい自分を知らぬままに生き抜く最善策なのかもしれない。
「頑張ろうね」
「・・・・頑張ってるよ」
以降、無言で砂を掘る。
そういう私も、スタックの回数が重なるにつれ、肉体的だけでなく精神的にも苦痛になってきた。自分の感情を冷静にコントロールするのが面倒だ。だが、もし本当にここでコントロールを放棄したらナビとして最低だ。理性という平均台を歩かされていて、一歩間違えたら大嫌いな自分の中に落ちていきそうだった。イライラしている。・・・ただ、ナビとしてのプライドがかろうじてバランスを保ってくれている。そんな感じだった。
砂を掘る手を休め、どうしたものかと天を仰いでいると後方から2台のメディアカーが現れた。2台とも止まってくれて快く手伝ってくれた。
それでも、なかなか脱出できない・・・・。
「大変だな。2駆でここまで来たのか?」
「・・・・え?」
・・・・今、なんて言った?
「気がつかなかったのか? 見てみろ。前輪が回ってないだろう?」
「え~~~~~っ!!!!」
スタックから脱出する時、どうしたって後ろからマシーンを押す。だから前輪が駆動していないことに少しも気が付かなかった。でも、言われてみればいつもシビアに砂に埋まっていたのは後輪だ。そんなことにも気がつかなかった自分が急に恥ずかしくなった。
「やだっ、ちょっとぉ!まこねぇ!2駆ですってよ!・・・2駆!それじゃスタックしまくるわけよねぇ」
神経の図太いおばさん口調になるしかない。友川も自分のドライビング技術以外にスタックの原因があったことでほっとしたのか、二人とも妙なテンションになっていた。
なんとかスタックから脱出し、その妙なテンションのままメディアの人たちにお礼を言い再びマシーンに乗り込む。
シートベルトの締まる音が聞こえたのと同時にふっと我に返ったようだった。私たちの頭の上にどーっとの「2駆」の2文字が押し寄せてきた。
「2駆かぁ・・・・。でも、行くしかないよねぇ」
「行くしかないでしょ・・・・」
常々思っていることだが、名ナビゲーターというのは、ルートブックを正確に解読し的確な指示を出すだけでなく、冷静沈着で自分自身を深く理解している哲学者みたいな人か、そうでなければ、天下一品のお気楽極楽的人間の要素を兼ね備えている人だと思う。私はまだどちらにも含まれていないが、目指すとしたらそれらを足して2で割ったようなナビ。・・・しかし、このような状況下においては、「今まで走ってきたんだから、今からもなんとかなるでしょ!」というお気楽ナビの方が救われるような気がする。

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