レグ13の今日、故ティエリー・サビーヌが1985年に発見し、初めてナビゲイ-ション走行を行った当時と同じルートを走る。由緒あるステージを走るというのに、ワクワク感が足りない。絶対的に睡眠不足で、全てにおいて感覚が鈍くなっているように感じる。
そんな状態だったのでスタートしたばかりの15km辺りでついにミスコース。すぐに気がついて引き返してもらったが、愚鈍な自分に腹が立って仕方がなかった。今日のステージは、GPSを追うよりも正確にルートブックを解読することが重要だって昨日のブリーフィングで言われていたじゃないか!轍に惑わされないようにしなきゃならないのに!一瞬の判断ミスがミスコースにつながり、タイムロスにつながってしまう・・・・。かなり落ち込む・・・・。
「私のスタックに比べたら、どうってことないよ!」
友川のこの言葉がなければ、しばらくは自己嫌悪に陥ってなければならなかっただろう。
・・・・私たちのマシーンに車載カメラが乗っかっていなくてよかったって思う。こういう青春ドラマみたいなこと、後で見たら恥ずかしすぎて笑いが止まらなくなると思う。

・・・・ドライバーはドライバーの辛さを、ナビはナビの辛さをかみしめながらゴールを目指す。
心と体を酷使しないとつかみとれないゴール。だから、耐えることに限界がなくなっている・・・・。
スポーツの世界ではよく「心・技・体」と言うけれど、全くその通りだと思う。「完成された自分」、「理想の自分」という意味でもそうなのだろうが、ラリーの場合、1秒1秒を真剣に、「心」と「体」そして「技」に取り組まないとならない。私の中ではこの3つがレース中における理想的状態の棒グラフのようになっている。日々、同じことの繰り返しのようだけど、その繰り返しの中から「得ること」と「捨てること」を学べばいい・・・・。
色々なことを考えながら、その後は何事もなく進んでいた。
できることなら、あと5ミリでもいいからアクセルを深く踏んでほしかったくらいで・・・・。
そんなふうに進んでいた353km地点・・・・・、突然にマシーンが吠えた!
バホ~~~~ン!!!!
回転数が一気に上昇・・・レッドゾーンにまで達し、もの凄いエンジン音。
マ、マシーンが吠えている(><;)
いったい何が起きた?
エンジンを止め、ボンネットを開けてみたが、何もわからない。
もう一度エンジンをかけなおすと、何事もなかったように、いつものエンジン音にもどっている。
「?????」
運転に支障はなさそうだ。なんだったんだろう????
この「なんだったんだろう?」は、後に 私たちを焦らすことになるのだが・・・・、この時は「何故?」を追求するより先に進んだほうが賢明だと判断した。ここまで来てマシーントラブルで泣くなんて絶対に嫌だ。しばらくの間、マシーンの機嫌を取るかのように押さえた走りをするしかなかった。
だが、まだ今日のコースの半分ほどしか走っていない。こんな走りで大丈夫なはずがない。少しずつスピードを上げるように促すが、時間が進むにつれ友川は何度もスタックを繰り返すようになっていた。私は、ついに友川の疲労がピークに達してしまったのだと思っていた。

何度も何度もスタックを繰り返し、「象の岩」と書かれたポイントになんとかたどり着く。
確かに・・・・・巨大な象がそこにいた。なんという景色・・・・・。自然は素晴らしい芸術を生む。
できることなら、この感動的な景色を堪能したかった。あの巨大な岩の下に立って空を仰ぎ見ることができたらどんなに素敵だろう・・・・。
近くに村が見えた。こんな景色に囲まれて生活している人々がうらやましかった。きっと心もきれいなんだろうな・・・などと考えられたのはほんの一瞬で、私たちのマシーンは柔らかい砂の上をウゴウゴと進んではスタック・・・・。それからは、スタック。掘る。押す。追いかける。スタック。掘る。押す。追いかける・・・・を、何度も何度も繰り返した。本当にへとへとだった。30分以上かけて砂を掘り、やっと脱出したかと思うと、1メートルも進まずにまたスタック・・・。たった何十メートルに相当な時間を費やしている。この調子では私の視界の中から象の姿が見えなくなるまでには相当かかりそうだった。すると、・・・・どこからともなく2人の女と数人の子供たちが近寄ってきた。フランス語にには聞こえなかったが、何を言っているかはすぐに想像がつく。「手伝ってあげるから、何か物をよこせ」・・・だ。一体、誰がこんなシステムを教えてしまったのだろう?せっかく心のきれいな村人達を想像していたって言うのに、台無しだ。
「お金も、あげる物も何もないから手伝わなくていい!」
彼女たちを完璧に無視しながら砂を掘り続けた。
・・・ヘトヘトとになりながら砂を掘り、ようやく脱出を試みたが30センチほどしか動かない。無情にもタイヤが砂深くに沈み込んだだけだった。
すかさず、彼女たちは、「だから、何かくれたら手伝うって」、みたいなジェスチャーを繰り返す。
悔しかった。私のささやかな想像が打ち砕かれたことと、無慈悲に過ぎていってしまう時間が私に悔し涙を流させた。
「あなたたちは物やお金をもらわないと、困っている人を助けないの?邪魔だから帰って!」
いい加減頭にきて日本語でどなり散らした。彼女たちは一瞬怯んだが、それでもその場を立ち去ろうとしない。
「もうやめてー!」
そう叫んだのは友川だった。え?一体どうしたんだ?いつも強気のはずの友川が涙声になっている。
・・・どうだっていい。泣きたいんだから泣かせよう。2秒ほど間隔をおいて私もつられたようにワーワー泣き叫んだ。・・・私も友川も、耐えながら戦ってきた疲れや、心の中の行き場のない感情を一気に吐き出し、村人たち八つ当たりをているみたいだ。・・・・泣きたいときに泣くって気持ちいい。数分もしないうちに、いつしか二人ともわざと「わーっ!」とか、「ギャーッ!」とか言いながら砂を掘っていた。なんだかおかしくなってきてクスクスと笑いだす。・・・・その様子が奇異に映ったのだろう。女の人たちはそれ以上何も言わなくなり、私たちのことをただ見ているだけだった。
私たちの叫び声が村にまで聞こえたのか、2人の男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。頭のターバンも身につけている民族衣装もきれいな青色・・・・。トアレグ・ブルーだ。それを見て、またモーリタニアにも追ってきていたことを思い出す。
女たちは彼らに向かって何かを言い、彼らも何かを言い返す。そして、ためらった様子もなく砂を掘るのを手伝いだした。通じるかどうかわからなかったけど、手伝ってくれても何もあげられないことをフランス語と英語と日本語を混ぜて伝えてみた。・・・目が合う。男がなだめるように優しく頷いた。
・・・・譬え様のないくらい美しい目を持った人。何もかもを見透かしてしまうような、深いブルーの目。言葉ではない何かで語りかけてくる。それに応じるように、私たちは無言で砂を掘った。女たちは去って行ったが、残っていた子供たちも手伝ってくれて、ようやくシビアなスタックから脱出することができた。大きなオレンジ色の太陽がかなり傾いている。もうあと10分もしないうちに日が落ちるだろう。急がなければ・・・・。何もあげられないことをわびて、私たちはこの砂漠の民に別れを告げた。
なぜか切なさに近い安堵を感じていた・・・・。
きっと、私は、あのディープブルー・アイズを忘れることはないだろう。
あの目の美しさはこの砂漠の美しさに匹敵していた・・・・。



















